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札幌高等裁判所 昭和57年(ネ)72号 判決

昭和五七年(ネ)第七二号事件被控訴人、

同年(ネ)第八八号事件控訴人(第一審本訴原告・反訴被告)

橋本良雄

昭和五七年(ネ)第七二号事件控訴人、

同年(ネ)第八八号事件被控訴人(第一審本訴被告・反訴原告)

大原信友

右訴訟代理人

森越博史

藤原栄二

森越清彦

高橋剛

主文

一  昭和五七年(ネ)第八八号事件(本訴)について

本件控訴を棄却する。

二  同年(ネ)第七二号事件(反訴)について

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三  訴訟費用について

当審における控訴費用のうち、昭和五七年(ネ)第八八号事件について生じた分は同事件控訴人の、同年(ネ)第七二号事件について生じた分は同事件控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  昭和五七年(ネ)第七二号事件被控訴人、同年(ネ)第八八号事件控訴人(第一審本訴原告・反訴被告……以下「原審原告」という。)

1  昭和五七年(ネ)第八八号事件(本訴)につき

(一) 原判決中原審原告敗訴部分を取消す。

(二) 原審被告は原審原告に対し、別紙物件目録記載(一)の土地につき、旭川地方法務局紋別出張所昭和三三年一一月七日受付第一二〇三号をもつてなした地上権設定登記の抹消登記手続をせよ。

(三) 原審被告は原審原告に対し、別紙物件目録記載(二)の建物を収去して、同目録記載(一)の土地を明渡せ。

(四) 原審被告は原審原告に対し、金四七万二五〇〇円、及び昭和五四年六月一日から右土地明渡ずみに至るまで一か月金九万四五〇〇円の割合による金員を支払え。

(五) 訴訟費用は第一、二審とも原審被告の負担とする。

(六) 第三、四項につき仮執行宣言。

2  昭和五七年(ネ)第七二号事件(反訴)につき

(一) (主位的請求について)

本件控訴を棄却する。

(二) (当審において追加した予備的請求について)

原審被告の当審における予備的請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも原審被告の負担とする。

二  昭和五七年(ネ)第七二号事件控訴人、同年(ネ)第八八号事件被控訴人(第一審本訴被告・反訴原告……以下「原審被告」という。)

1  昭和五七年(ネ)第八八号事件(本訴)につき

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 訴訟費用は第一、二審とも原審原告の負担とする。

2  昭和五七年(ネ)第七二号事件(反訴)につき

(一) (主位的請求について)

(1) 原判決中原審被告敗訴部分を取消す。

(2) 原審原告は、原審被告から金四三七万円の支払を受けるのと引換に、原審被告に対し、別紙物件目録記載(一)の土地につき、昭和五四月一一月八日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ(なお、この請求は、従前金三七七万八四〇〇円との引換給付請求をしていたものを右のように減額したものである。)。

(3) 訴訟費用は第一、二審とも原審原告の負担とする。

(二) (当審において追加した予備的請求について)

(1) 原審原告は、原審被告から金一〇〇〇万円の支払を受けるのと引換に、原審被告に対し、別紙物件目録記載(一)の土地につき、昭和五四年一一月八日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

第二  当事者双方の主張〈以下、省略〉

理由

一当裁判所も、原審原告の本訴請求、原審被告の反訴主位的請求及び当審において追加した同予備的請求は、いずれも理由がないものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

1  〈証拠関係訂正、付加省略〉

2  借地法七条の法定更新による更新前後の地上権の同一性の有無について(本訴につき)

(一)  原審原告は、本件更新前の地上権と本件更新後の地上権とは同一性がなく、かつ、借地法七条の法定更新により本件更新前の地上権は消滅しているので、同地上権についてなされた本件地上権設定登記は、本件更新後の地上権についての公示方法とはなりえず、事実に反する無効な登記であると主張する。

(二)  ところで、地上権は、他人の土地において工作物等を所有するため、その土地を使用しうる物権であり(民法二六五条参照)、とりわけその設定目的が、本件地上権設定契約におけるように、建物の所有を目的とする場合には、借地法の適用を受けるものとなり、右地上権は、正当な事由に基づくことを理由として消滅させられる場合は格別、土地所有者の意思とは関係なく、原則として、当事者間において定められた期間満了の後においても更新され継続することが予定されているものというべきである(借地法四条ないし七条参照)。

しかして、特に借地法七条による法定更新の場合には、当初の地上権設定契約において、一応その設定目的や存続期間が約定されているとしても、更新により、その存続期間の延長のみならず、その設定目的も、非堅固建物所有の目的から堅固建物所有の目的へと自動的に変更されることも生じ得ることを予定しているものと解するのが相当である。

(三)  したがつて、建物所有を目的とする地上権は、借地法七条の法定更新により、地上権の存続期間が延長されかつその設定目的が変更されるような場合であつても、更新の前後を通じてその地上権は同一性を有しており、更新前の地上権が消滅する関係にたつものではないと解される。

そうすると、地上権者たる原審被告は、本件土地所有者である原審原告に対しては、本件更新前の地上権についてなされた本件地上権設定登記をもつて、本件更新後の地上権の公示方法としてなお有効なものであると主張することが許されるものというべきである。

(四)  したがつて、本件更新前の地上権についてなされた本件地上権設定登記が無効であるという原審原告の主張は、採用することができない。

3  本件建物の新築に対する遅滞なき異議の有無について(本訴につき)

(一)  原審原告が原審被告に対し、昭和四八年に、札幌地方裁判所昭和四八年(ワ)第一一〇九号土地明渡等請求事件の訴を提起したことは、当事者間に争いがない。

(二)  〈証拠〉を総合すると、(1) 原審被告は、昭和三八年四月末ころ旧建物を取壊し、同年五月初めころから本件土地において堅固な本件建物の新築に着手したこと、(2) 原審被告は、本件地上権設定契約に際し、原審原告が原審被告に対し、旧建物を改築することを認める旨述べていたことなどの事情から、右新築に着手した事実を原審原告に対して通知しなかつたこと、(3) 原審原告は、昭和三八年五月当時、本件土地の所在地からかなり遠距離である札幌市に居住していたため、原審被告が本件建物の新築に着手した事実を知ることができなかつたこと、(4) その後、原審原告は、昭和三八年七月末ころ、本件土地付近を訪れた際、原審被告が本件土地上に鉄筋コンクリートブロック造りの堅固な本件建物を新築中である事実を知つたこと、(5) しかしながら、原審原告は原審被告に対し、右新築に対する異議を述べなかつたこと、(6) 本件建物は昭和三八年一〇月ころ完成したことなどの事実が認められ、原審における原審原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、上記の事実中原審被告が旧建物を取毀して本件土地上に本件建物を新築した事実は当事者間に争いがない。)。

(三)  原審原告は、昭和四八年に前記(一)に掲記の訴を提起したことにより、本件建物の新築に対し、借地法七条所定の遅滞なき異議を述べたと主張するが、右(二)に認定のとおり、原審原告は、原審被告が堅固な本件建物を新築中である事実を昭和三八年七月末ころには知つていたにもかかわらず、その当時、右新築に対する異議を述べてはいなかつたものであるから、右新築の事実を知つた時点から約一〇年後になした右訴の提起をもつて、借地法七条にいう遅滞なき異議を述べたものということはできない。

(四)  したがつて、原審原告の右主張は、採用することができない。

4  原審被告が当審において追加した予備的請求について(反訴につき)

(一)  原審被告は、昭和三三年一一月七日、原審原告との間で、原審原告と訴外武田幸治との間に結ばれている本件土地についての売買予約が同三六年四月までに完結されないときは、原審原告は原審被告に対し、本件土地を、原審被告の予約完結の意思表示により、代金は予約完結時において客観的に評価される底地価格で売り渡す売買予約契約を締結した旨主張する。

(二)  しかしながら、当裁判所も、原審被告と原審原告との間において昭和三三年一一月七日に締結された本件土地についての売買予約契約の内容は、原判決がその理由中の「(反訴につき)の二項」(原判決一三枚目裏一二行目から同一四枚目表六行目まで)において判示するところと同一であると判断するものであつて、右売買予約契約についての売買代金の約定が前記(一)に記載のとおりであつたとの原審被告の主張事実は、本件全証拠によつてもこれを認めるには足りない。

(三)  したがつて、原審被告の前記主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二結論

よつて、原審原告の本訴請求及び原審被告の反訴主位的請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから民訴法三八四条により本件各控訴はいずれもこれを棄却すべく、また原審被告が当審において新たに追加した予備的請求も理由がないからこれを棄却することととし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧田薫 吉本俊雄 井上繁規)

物件目録

(一) 北海道紋別市幸町四丁目二三番地

宅地 312.24平方メートル

(二) 同所所在

未登記

鉄筋コンクリートブロック造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 病院

床面積 一階160.52平方メートル

二階152.72平方メートル

《参考・原審判決理由》

(本訴につき)

一1 原告は本件土地を所有しているものであるところ、昭和三三年一一月五日被告との間で、本件土地について、建物所有を目的とする地上権設定契約を締結し、本件土地について、旭川地方法務局紋別出張所昭和三三年一一月七日受付第一二〇三号地上権設定登記を経由したこと、被告は本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

2 〈証拠〉によれば、原告と被告とは、前示地上権設定契約締結に際し、その目的を、堅固な建物以外の建物所有、その存続期間を二〇年と定めたことが認められる。

被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲証拠に照らし、たやすく措信し難く、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

3 被告において、本件地上権設定契約は更改されたと主張するところ、〈証拠〉によれば、被告は前示本件地上権設定契約締結当時本件土地上に木造平屋建居宅一棟(旧建物)を所有していたところ、昭和三八年四月末右旧建物を取毀し、同年五月初から同年一〇月までの間に本件土地上堅固な建物である本件建物を再築したが、原告はこれに対し、異議を述べなかつたことが認められる(被告が旧建物を取毀したうえ本件土地上に本件建物を建築したことは、当事者間に争いがない)。

しかし右事実をもつてはまた、原、被告間に本件地上権認定契約の内容たるその目的、存続期間につき黙示の更改がなされたものというには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

被告の右主張は借地法第七条による存続期間の変更の主張を包含するものと解するのが相当であるところ、本件地上権の存続期間は右旧建物の取毀、本件建物の再築、これに対する異議の不存在により右旧建物の取毀の時期たる昭和三八年四月末から三〇年に延長されたものということができる。

そうしてみると、原告において、本件地上権は昭和五三年一一月五日存続期間満了により消滅した、と主張するが、右説示によりその理由はないものといわなければならない。

4 原告において、「原告と被告とは昭和五三年一一月五日ころ本件地上権設定契約を解約し、かつ、本件地上権設定登記の抹消登記手続をなすことを合意した。」旨主張する。

原告が昭和五三年一一月五日ころ被告に対し、本件地上権設定契約の解約と本件地上権設定登記の抹消登記手続をなすことを内容とする契約の締結の申込をしたことは当事者間に争いがないが、被告がこれを承諾したことについては、原告本人尋問の結果中これに添う部分があるが、被告本人尋問の結果と対比してたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告の右主張は採用することができない。

5 次に、原告において、「原告は昭和五四年一二月一日被告に対し、民法第二六六条、第二七六条に基づき、本件地上権の消滅を請求した。」旨主張する。

原告が昭和五四年一二月一日被告に対し、右地上権消滅の請求をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、原告において、本件地上権の地代年額は、昭和五〇年度金八万二七四九円、昭和五一年度金九万一〇四八円、昭和五二年度金九万三五三一円、昭和五三年度金九万九三七七円である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

原告において、原告と被告とは、本件地上権設定契約締結の際、本件地上権の地代年額は、本件土地にかかる当該年度の固定資産税額及び都市計画税額を合算した額と同額とし、右税額が増額されたときは、右地代額は当然これに応じて増額されるものとする旨合意した、と主張し、〈証拠〉によれば、本件土地にかかる固定資産税額及び都市計画税額の合算額は、昭和五〇年度金八万二七四九円、昭和五一年度金九万一〇四八円、昭和五二年度金九万三五三一円、昭和五三年度金九万九三七七円であることが認められるが、しかし、原告と被告とが右内容の合意をした、との点については、原告本人尋問の結果中にはこれを添う部分が存するが、〈証拠〉に照らしたやすく措信し難い。かえつて、前掲甲第一号証、被告本人尋問の結果によれば、原告と被告とは、右本件地上権設定契約締結に際し、その地代については、月額坪当り金一〇円とし、かつ、将来、本件土地にかかる固定資産税額が増額されるときは、その増額の限度において増額を請求し、もつてこれを増額することができる旨合意したことが認められる。そして、原告が本件地上権の昭和五〇年度ないし昭和五三年度の地代につき、前記固定資産税額及び都市計画税額の合算額と同額に増額する旨の請求をしたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。〈証拠〉によれば、原告は昭和四五年中被告に対し、本件地代年額につき、金二万四九四〇円に増額する旨申入れたところ被告はこれを承諾したことが認められる。

また、被告は原告に対し、昭和五〇年度から昭和五三年度までの地代につき、各年度各金二万四九四〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

そうしてみると、原告の被告に対する右地代債権昭和五〇年度から昭和五三年度までの分につき各年額金二万四九四〇円を越える部分については、それが成立したものということはできないことは明らかであるから、その不履行を理由とする原告の右本件地上権消滅の請求はその効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

6 そうすると、本件地上権は消滅したものということはできないし、本件地上権設定登記抹消登記手続履行の合意が成立したものということはできないから、本件地上権設定登記の抹消登記手続及び本件地上権の地代のうち昭和五一年度ないし昭和五三年度の残金二〇万九一三六円の支払を求める原告の本訴請求は理由がなく、また本件建物の収支、本件土地の明渡を求める原告の予備的請求も理由がないものというべきである。

二 原告において、「原審は昭和五四年一月二一日被告に対し、本件上地を賃貸した。」旨主張するが、原告本人尋問の結果中これに添う部分は、被告本人尋問の結果に照らしたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

被告が本件土地につき地上権を有することは、前記一に認定のとおりである。

してみると、右賃貸借の成立をしたことを前提とし、その賃料の支払を求め、更に、その解除に基づく本件建物の収去、本件土地明渡及び損害金の支払を求める原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

(反訴につき)

一 被告は原告に対し、本件反訴状をもつて、本件土地につき、売買予約完結の意思表示をし、右反訴状は昭和五四年一一月八日原告に到達したことは、本件記録上明らかな当裁判所に顕著な事実である。

二 そこで、右売買予約完結の意思表示の効果につき検討する。

〈証拠〉によれば、原告と被告とは昭和三三年一一月七日、原告と訴外武田幸治との間に結ばれている本件土地にかかる別件の売買予約が昭和三六年四月までに完結されないときは、原告は被告に対し、本件土地を被告の完結の意思表示により、代金を完結時の本件土地の時価の二〇パーセント相当額で売渡す旨約したことが認められる。

〈反証排斥略〉

三 ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告と訴外武田との間に結がれていた本件上地にかかる別件の売買予約は昭和三六年四月までに完結されなかつたことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

してみると、被告の本件売買予約完結権は昭和四六年四月末消滅時効により消滅したものといわなければならない。

四 被告において、原告と被告とは、右売買予約完結権の行使につき、前記本件地上権の存続期間内はいつでもこれをなしうる旨特約した、と主張するが、被告本人尋問の結果中これに添う部分は原告本人尋問の結果と対比してたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

五 したがつて、本件売買予約完結権の行使はその効力を生ずるに由ないものといわなければならないから、被告の反訴請求は理由がない。〈後略〉

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